2016年6月7日火曜日

社会人入門

今年ももう六月である。四月に大学を出て就職した人の中には、なかなか社会人としてうまくやれていないという方もいるだろう。あるいはまた、来年の就職のために動き出した学生の中にも、社会に出てちゃんとやっていけるのだろうかと不安を抱いている方がいるかもしれない。

そこで今回は、社会人として八ヶ月の経験を有する私が悩める若者たちにアドバイスを送りたい。まっとうな社会人としてやっていくための方法や考え方を、僭越ながら、以下に四つ述べさせていただこう。

第一に、「組織のために尽くすこと」。

社会人とは、正確に言うならば会社人である。つまり、会社という組織に雇用された人間のことだ。このような人は所属先である組織なしには生きることができない。それゆえ、常に、組織の利益および存続が個々のプライベートよりも優先されるのである。

社会人は始業時間よりもはやく出社し、就業時間よりも遅く帰宅するのが暗黙のルールである。かなりの場合、就業時間外の労働に対しては給与が発生しないが、それに対して不平不満を言ってはいけない。よろこんで労働力を搾取されること。これこそが社会人として求められる基本であり極意である。

こうした理由から、有給休暇をなるべく取得しないことも必要だ。有給を取得しないということは、サービス残業と同じく、会社によって労働力を搾取されることにほかならない。だが、それゆえに甘受すべき事柄である。労働力の無償奉仕こそ、社会人としての本懐なのだ。さらに、会社の経営状態によっては月百時間以上におよぶ残業や過酷な条件での労働も必要となるため、場合によっては、自己の基本的人権を放棄しよう。過労死に至らない限り、個人の健康や生活を優先することはすべて「甘え」もしくは「学生気分」と称され、社会人にとっては最大の恥辱となる。

第二に、「組織の価値観に合わせること」。

ただ労働力を提供するだけでは足りない。搾取されるだけではいけない。社会人たるもの、その内面においても、可能な限り会社組織の価値観に染まらなければならない。独自の価値観を持ったり、自分でものごとを考えたりするのはタブーである。会社の繁栄をわがことのように喜び、凋落をこころの底から悲しめるようになろう。

その際、法律や道徳を気にしてはいけない。たとえ違法であり社会規範に背く行為であったとしても、会社の意向であればそれに沿うようにふるまわなければいけない。こうした意味で、会社ぐるみの偽装・不正会計に荷担した大企業の社員たちは社会人の鑑である。見習うべし。

第三に、「夢を捨てること」。

会社は個々の従業員の夢になど興味がない。それが会社の発展に関係がないとすればなおさらである。むしろ、会社の労働以外のものに時間と労力を割かれては困るのである。だから、個人的な夢はなるべくはやい時期に捨て去ることだ。

ただし、叶えるつもりのない夢は持ってもさしつかえない。夢を持ちつづけるのは精神衛生上いいことだから、その意味での夢は持っていてもいい。だが、それを実現しようとしてはいけない。努力してもいけない。せいぜい、飲み会の席で「実はこんな夢があるんです」と語る程度に留めよう。就職から数十年が経過し、もはや手遅れだろうと思われる年齢になったら「おれにも若いころこんな夢があったんだ」としみじみ語ることも問題ない。

しかし、基本的には夢は持つべきではない。一生涯、自分は何者でもないのだということをこころに刻んでおこう。

最後に、「働く理由をつくること」。

上記の一から三を読んで、なかには社会人としてのハードルが高いと感じた方もおられるかもしれない。組織のために自分を殺したり、夢を捨てるくらいなら、社会人なんかまっぴらだと思われたかもしれない。実際、世の中にはいちど社会人となっても途中でドロップアウトしてしまう人もいる。日々あくせくと働き、自分はなんのためにこんなことをしているんだという疑問も湧いてくるかもしれない。最後に、そうならないための方法をひとつ提案しよう。

それは、結婚して家族を持つことである。結婚して——男性目線となってしまい恐縮だが——できれば奥さんには専業主婦になってもらう。そして、子供ももうける。すると、独り身であれば辞めてしまおうかと思うような仕事でも、「家族のために働く」という強力な理由付けができる。おまけに、こうしたセリフは社会人としての評価を著しくアップさせてもくれる。

新築のマイホームを買って三十年以上のローンを組むのもおすすめである。こうした縛りを自らつくってしまえば、容易に会社を辞めることはできなくなるからだ。環境を整えることは、社会人を続けていく上でも重要なのである。

以上、若輩者ながら社会人としてのコツのようなものを書いてみた。新社会人になった方、これから社会に出ていこうという方は、ぜひ参考にして頂きたい。

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