2016年3月4日金曜日

花粉症のない世界

花粉症の季節がやってきた。まだ序の口のはずであるが、鼻水が止まらず目もかゆいという日がもう何日かあった。これからが怖い。

去年まで、私は関西にいた。関西で一人暮らしを初めてからというもの、私の花粉症は相当に鳴りを潜め、さしたる苦痛ではなかった。だが、今年は十年ぶりに地元で春を迎えることになる。十代のころの花粉症のしんどさが、ひょっとしたらまた戻ってくるかもしれない。

私の地元はど田舎で、家も山のふもとみたいなところにある。車でほんの少し山を登れば杉の峠という名の峠がある。なんとも不吉な名称である。春の風に乗ってわさわさと揺れる杉の樹々から黄色いモヤモヤが流れてくる。そんなイメージが浮かんでくる。

にしても、これだけ科学技術が発展し、人工知能だ万能細胞だと騒がれている割に、花粉症対策はお粗末である。そこそこいい薬、まあまあのマスク、疑わしい民間療法は毎年毎年出てくるが、根本的な解決にはほど遠い。結局、われわれ日本人は花粉症に悩まされているのだ。

こんなとき、脳裏をよぎるのはこんな思い。「ああ、五百年後くらいに生まれてりゃあな」である。たぶん、あと五百年もあれば、日本人は花粉症を克服しているだろう。副作用のない完璧な薬を開発するか、都市全体を透明なドームで覆うか、杉に遺伝子操作を加えて無害化するか、もしくは人間のほうの遺伝子をいじってあらゆる余計なアレルギー反応を抑制するか、はたまた極度に高度化された生物学および工学が哲学の領域にまで突入して人間が形而下の存在から解放され物理法則すら超越した存在になるか。何にせよ、花粉症に悩まなくていい世界が実現しているだろうと思う。花粉症は、過去の遺物と成り果てているだろう。

と、はるか未来に思いを馳せつつ、目下私はマスクをし、コンタックを飲んでいる。明日あたり、甜茶を買ってくるつもりだ。いま頼りになるのは古来からあるお茶である。

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